メルボルン・パークで行われた2019年全豪オープンテニスは、大坂なおみ(21)の初優勝と錦織圭(29)の4度目のベスト4という、日本中のテニスファンに大きなインパクトと喜びを与える結果で幕を閉じました(男子単はノバク・ジョコビッチ(セルビア)が史上最多7度目の優勝)。なんといっても、昨秋の全米オープンに続くグランドスラム連覇と、アジア人初の世界ランク1位の快挙を同時に達成した大坂の活躍は圧巻でした。
第4シードとして出場した大坂は、3回戦で謝淑薇(台湾)に5-7、6-4、6-1 、4回戦ではアナスタシヤ・セバストワ(ラトビア)を4-6、6-3、6-4 で破り、全豪では初めてベスト8に進出しました。準々決勝では、元世界ランク3位の強豪、エリナ・スビトリナ(ウクライナ)を6-4、6-1 で圧倒しました。準決勝の相手は、元世界ランク1位のカロリナ・プリスコバ(チェコ)。武器であるファーストサーブは59%の入りであまり調子がよくありませんでしたが、6-2、4-6、6-4で決勝進出を決めました。
迎えた決勝の相手は、世界ランク6位で左利きの元全英女王、ペトラ・クビトバ(チェコ)。大坂は課題のファーストサーブの調子もよく、タイブレークにもつれるものの得意のサービスエースなどを決め、第1セットを奪いました。第1セットを奪った試合は”59連勝中”の大坂に絶好の機会が訪れます。
第2セット、第3ゲームで大坂は貴重なサービスブレークを手にしました。互いにサービスキープを重ねて5-3、ここで3度のチャンピオンシップポイントが巡ってきます。またとないチャンスに精神の動揺からか、大坂はそれまで盤石だったプレーに乱れが出ます。俗に言う”勝ちビビリ”というもので、大坂は試合後のインタビューで「勝ちを確信して安全にいってしまった」と振り返っています。ショットの精度は徐々に落ち、試合巧者で抜け目のないクビトバにブレークを許すと、さらに大坂のダブルフォルトで第2セットを失います。
絵に描いたような逆転劇で、負けてしまうのか…。しかし、ここから大坂のメンタルは驚異的に復活しました。トイレットブレークの後、表情に落ち着きを取り戻していたのです。この間、コーチのサーシャ・バインの激励があったのでしょう。ファイナルセットではサーブやストロークに安定感が戻り、第3ゲームを値千金のブレーク、最後は7-6(2)、5-7、6-4でクビトバを破って栄冠に輝きました。
思えば、初優勝を果たした前年の全米オープン決勝では、尊敬して止まないセレナ・ウィリアムズ(アメリカ)との対戦でした。主審に対するセレナの激昂による反則でいわくつきの勝利を手にし、大観衆のブーイングの中、涙ながらにインタビューに応じる大坂の姿は世界に衝撃を与えました。「優勝は実力でない」と思いがけず批判を浴びた大坂にとって、正真正銘の実力で勝ち取った今回の全豪優勝は喜びもまた一入だったことでしょう。感無量の心情を「Words can’t describe this feeling. (この感情は言葉では言い表せない)」と賜杯にキスする写真と共にツイートしています。
所属する日清食品のCMが評判になり、試合中の真剣な表情とはギャップのある素朴で無邪気なインタビュー、家族思いの一面など、コート外の話題も事欠かない大坂。大躍進を遂げたニューヒロインには強敵・難敵があまり見当たりませんが、やはり元世界女王であるセレナとの再戦は待ち遠しいところです。今後、5月の全仏、6月の全英、9月の全米を控えており、女子シングルス史上6人目となる年間グランドスラム達成にも大きな期待が寄せられます。