2019年全豪オープンテニス 錦織選手の試合結果

4度目の全豪ベスト8

錦織選手は今回の全豪オープンにおいて、ベスト8という結果を残しました。言い換えれば、準々決勝敗退という形で終わりを迎えたことになります。錦織選手は2014年の全米オープンで決勝まで勝ち進んだ世界トップクラスの選手ですが、全豪オープンにおいてはベスト8が最高成績です。過去三度、準々決勝で難敵ジョコビッチ選手やワウリンカ選手、マリー選手に惜しくも敗退し、全豪ベスト4への道を阻まれてきました。今回もジョコビッチ選手に敗退し、最高成績を塗り替えることは叶わず。しかし今大会ではフルセットの試合が三度も見られ、錦織選手の大きな成長を感じることができました。しかし、怪我に対しての根本的な完全回復、それと共に自爆に繋がるエラーの数を減らしていく、という長期にわたり解決しなければならない課題が浮き彫りになりました。

一回戦 マイクシャク選手による猛攻

錦織選手は今大会一回戦、予選から勝ち上がってきたポーランドのカミル・マイクシャク選手と対戦しました。錦織選手は昨年怪我に悩まされたとはいえ、序盤からプレーに難があったわけでもなく、普段通りの攻撃的なプレーを展開していました。しかしマイクシャク選手の力強いサービスやコートの隅を射抜くフラットのバックハンドストロークに苦しみ、序盤から0-2とリードを許す展開となりました。第三セットに突入してからはマイクシャク選手の調子が急に落ち込み、錦織選手が6-0でセットを奪います。ここ数年で強化したサービスを駆使し、マイクシャク選手に付け入るスキを与えませんでした。第四セットも第三セットと同様の展開が続き、錦織が取ります。第五セットではマイクシャク選手が身体の痙攣を訴え棄権しました。錦織選手は今大会ダークホースであるマイクシャク選手の急な調子の変動に動じることなく、2時間以上にわたって自分のテニスを貫き、二回戦へコマを進めました。

二回戦 2mを超えるカルロビッチ選手との死闘

二回戦ではクロアチアのベテランテニスプレーヤー、イボ・カルロビッチ選手と対戦しました。カルロビッチ選手は世界でも有数のビッグサーバーであり、そのサービスに錦織選手は何度も苦しめられてきました。ランキングは錦織選手の方が高いものの、これまでの対戦成績は2勝2敗です。そのこともあり、今回もそう易々と勝たせてはもらえない展開になるだろうと予想されていました。そしてその予想通り、今回の対戦でも試合はフルセットへもつれこみ、4時間近い長期戦となりました。序盤は錦織選手のサービス、それに加えレシーブも冴えわたり、2セットを連取しました。過去対戦した中では、カルロビッチ選手のサービスに全く触れずにセットを落としてしまう展開も多かったのですが、今回はしっかりと相手コートへボールを返せていました。もともと武器だった読みがここ数年でさらに強化されてきたことが窺えます。また今回では、錦織選手が打つドライブの強いロブも精度が良く、カルロビッチ選手の頭上を綺麗にボールが通り抜ける場面も多かったです。カルロビッチ選手のサービスやボレーが第三・第四・第五セットと好調で錦織選手は窮地に立たされますが、ファイナルセットのタイブレークとなると、マイケル・チャンコーチに鍛えられた得意の勝負強さで力強いショットを打ち続けました。タイブレーク終盤で錦織選手が主審の判断に戸惑いを見せる場面もありましたが、その怒りや不満を武器にしたのか、さらに勢いよくポイントを連取していき、勝利を飾ることができました。会場の雰囲気や審判からの意見に流されないメンタルの強さは、ここ数年磨きがかかっています。

三回戦 ソウザ選手に今大会初の快勝

三回戦はポルトガルのソウザ選手との対戦になりました。サーブとストロークのパワーに定評のあるソウザ選手ですが、錦織選手はそういったパワーショットにも世界トップの走力で食らいつき、ソウザ選手のミスを誘いました。パッシングショットやドロップショットも駆使して得点を重ね、3-0で快勝となりました。しかしリードしているからといって余裕を見せすぎたショットがいくつかあり、これから4大大会で優勝していくためにはそういった甘い失点をゼロにしていく努力が必要でしょう。

四回戦 5時間にわたるカレーニョ・ブスタ選手との激闘

四回戦ではスペインのパブロ・カレーニョ・ブスタ選手と対戦しました。2019年全豪オープンにおいて、最も見応えのあった試合の一つがこの錦織対カレーニョ・ブスタ戦でしょう。序盤、第一・第二セットは錦織選手のアンフォーストエラー(自分に原因があるミス)が目立ち、連続でセットを落としてしまいます。ここでは一・二回戦でのフルセットから来る疲れが、確実に錦織選手の身体に蓄積していることが窺えました。カレーニョ・ブスタ選手のフォアハンドは精度も良く威力も強く、錦織選手はそれに追いつけない、という場面が多かったです。錦織選手がラケットをコートに投げる場面もあり、自分のミスに対して感情的になっていることも窺えました。錦織選手はもともと礼儀正しいプレーヤーとして有名で、ラケットを投げるなどということはめったになかったのですが、今大会では一回戦でもそういった場面が見られました。こういったラケットへの扱いも今後改善していく必要があるでしょう。しかし第三・第四セットで錦織選手は体力的にも厳しい中、ミスを減らし巻き返していきました。第五セットではカレーニョ・ブスタ選手も調子を上げ、試合はタイブレークに突入しました。そのタイブレークの間も主審によるジャッジミスがあり、会場がざわついたのですが、錦織選手は無言で精神を整え、最後まで良いプレーを見せて勝利しました。錦織選手は以前であれば、無言ではあるものの確実に感情を相手のペースに持っていかれている部分がありました。しかし大きな怪我を完全ではないにしろ乗り越えて、また怪我で技術的な練習を積めない間にメンタルトレーニングを重ね、不動の心を手にしました。この試合は錦織選手が敗退間際となる場面が多かったですが、前述の不動の心によって錦織選手はそのたびに通常以上のプレーを展開し、巻き返していきました。最後まで諦めないという強さは錦織選手の大きな武器です。

準々決勝 世界王者ジョコビッチ選手と錦織選手の疲労

準々決勝では現在世界ランキング一位のノバク・ジョコビッチ選手と対戦しました。過去の対戦成績は2勝15敗と錦織選手が大きく負け越しています。今回の対戦でも、序盤からジョコビッチ選手のペースで試合が展開され、錦織選手はあっという間に第一セットを落としてしまいます。ジョコビッチ選手の圧倒的なディフェンスに対して、錦織選手は手も足も出ませんでした。セット終了後には右太ももにテーピングを施す場面があり、四回戦のうち三回もフルセットを勝ち抜いてきた代償がのしかかっていることが分かります。その後の第二セットは明らかに錦織選手が動けなくなっており、それはまるで一回戦終盤でのマイクシャク選手を見るようでした。ゲームカウント1-4の時点で棄権の旨を審判に伝え、錦織選手はコートを後にすることになります。こうして錦織選手の2019年全豪オープンは棄権という判断のため、心残りのある結果に終わりました。しかし四回戦までを見れば、フルセットやタイブレークを勝ち抜く錦織選手の逆境を跳ねのける勝負強さをあらためて確認できる、素晴らしい結果と言うこともできるでしょう。こういった強さをもともと錦織選手は持ち合わせていましたが、怪我や私生活などコート外の出来事にも左右されて、2017年などにはその強さを失ってしまっている時期もありました。しかし怪我から復帰した後、2018年中盤から終盤にかけての全英オープンベスト8や全米オープンベスト4をきっかけにして、逆境のポイントでこそ強いショットで決めきるという特徴が戻ってきました。今大会のタイブレークを見る限り、そういった強さはさらにさらに磨きがかかっています。これからの課題としては怪我の根本的な克服とアンフォーストエラーの改善が残りますが、初月から全豪ベスト8ということもあり、錦織選手の2019年には期待ができそうです。

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