先日国民投票でイギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)のEU離脱が決定した。この決定はサッカー界にも大きな影響を与える可能性がある為、プレミアリーグで起こりえる事を整理してみます。
イングランドプレミアリーグには外国人枠は存在しない。あるのは2010年に施行されたホームグロウンルールのみ。トップチーム25人以内のうち、国籍にかかわらず21歳の誕生日を迎えるシーズン終了までに、3シーズンまたは36ヶ月以上イングランドおよびウェールズのチームでプレーした選手を8名以上登録していれば問題がない。
ただ、日本人選手がプレミアリーグのチームに移籍するときによく問題になるのが「就労ビザ」。プレミアリーグには外国人枠はないが、イギリス国内でプレーするということはイギリス国内で仕事に就くという事。その為、イギリスの就労ビザを獲得しないとプレミアリーグでプレーすることは出来ない。
そしてイギリスではこの就労ビザ発行の要件がかなり厄介となっている。
基本的には直近の代表チームの主力選手でないとビザが発行されないという状態で、詳細は、FIFAランク1-10位の国の選手は直近2年で30%、11-20は45%、21-30位は60%、31-50位は75%以上の代表の試合に出場していなければならないとなっている。
日本人選手の特に若手の場合は、どうしてもこの基準をクリアするのが難しくなるため、ドイツなどに比べイングランドでプレーする選手が少ない一因となっている。
ただ、このルールでいくとクリスティアーノ・ロナウドはマンチェスター・ユナイテッドに加入できなかったし、プレミアリーグ初制覇の立役者だったエンゴロ・カンテもリヤド・マフレズもレスター・シティに加入できなかった事になる。しかし彼らを初め数多くのまだ原石だった選手が加入できたのは、その選手いずれもがEU加盟国(及びEU協約を結んでいるEU域外諸国、EFTA加盟国)の国籍を持っていたから。
サッカー界を大きく変える事となった1995年のボスマン判決によって「労働者の移動の自由の原則」を持つEUのルールがサッカー界でも採用される事となり、EU加盟国内では国籍による一切の制限をうける事がなくなった為、彼らはプレミアリーグでプレーする事が可能となったのである。
しかしイギリスはEUから離脱するとなると話しは変わってくる。
EU加盟国では無いという事は、労働者移動の自由の原則はなくなりイギリス国籍を持たない選手がプレミアリーグでプレーするのは全員就労ビザが必要となる。
2015/16シーズンのプレミアリーグでは約67%の選手が外国人選手で、そのうち100名を超える選手が現在の要件では就労ビザの発効要件を満たしていない為、このままだとプレミアリーグでプレーできなくなる。
そしてまた今後は代表経験の無い若手選手を青田買いする事もできなくなるという事だ。
イギリスがEUから離脱すると決定的に起こるのがポンド安。
世界の三大マーケットの1つであったロンドンはEUの中枢として、ロンドンに拠点を置けばその他全てのEU加盟国で自由にビジネスを行う事ができのだが、EUから離脱することでその立場を失う事となりポンドの価値が下がるのは確実だ。(既にポンド安は起こっている。)
そうなるとまず最初に起こるのがプレミアリーグでプレーするスター選手の流出危機。
例えばポンド安が進みユーロとの価値が変化するとプレミアリーグでプレーする選手を他のリーグのチームは今までよりも安く獲得することができる事となる。
そしてそれ以上に大きな影響を受けるかもしれないのが選手の獲得。
プレミアリーグは放映権料の高騰による恩恵を最も受けたリーグで、プレミアリーグで残留争いをしているチームでも、例えばブンデスリーガやリーガ・エスパニョーラ、セリエAでは中位以上の予算規模となっているのが現実だ。
それがポンドの価値が下がることによってその差は大きく縮まり、さらには逆転する可能性もある。そうなるとこれまでの様に選手が獲得できなくなる可能性が高まり、バイエルン・ミュンヘンやレアル・マドリード、バルセロナ等のビッグクラブとの獲得合戦にも後手を踏む可能性が高くなる。
ここに書いた内容は現在の条件で今スグにイギリスがEUから離脱した場合に起こる事であって、正式にイギリスがEUから離脱が決定するには実際のところ数年はかかるであろう。
しかしこの問題がサッカー界だけ何も起こらないという事はありえないだろう。
豊富な資金力と様々なルールの恩恵を受け繁栄を極めるプレミアリーグ。
そのプレミアリーグの栄華は思わぬ形で終わりを迎える可能性がある。
イギリスのEU離脱交渉の動向はサッカーの面から考えても注目せざるを得ない。